言葉遣いの重要性と患者さんへの共感の大切さ

はじめに

私たち治療者として、患者さんとのコミュニケーションにおいて、無神経な一言がどれだけ患者さんの心を傷つけることになるか、言葉遣いの重要性を再認識する出来事がありました。

ある患者さんのエピソードから学んだことを通じて、改めて患者さんとのコミュニケーションについて考えてみましょう。

患者さんを遠ざけてしまう無神経な一言

8年前から毎月一回のお体の調整に来られている60代の女性患者さんが、病院へ行った時の話をしてくれました。

この女性患者さんは、ある疾患をお持ちで定期検診のため2ヶ月に一回のペースで病院に通われています。

先日受診した時に血液検査の結果を見た担当医師が「ようやく〇〇(病名)らしくなってきましたね」と言ったそうです。

ご自身の病気が心配で、無理をすると辛い症状が出るのを何年も前からコントロールしながら整体を受けて凌いできた患者さんに、「〇〇(病名)らしくなってきた」と言われて本当にショックを受け、いつも明るく冗談ばかり言うような方がこの時ばかりは涙を流して悲しんでおられました。

私もこの話を聞いて、ハッとしました。

他の患者さんに、この医師と同じような無神経なことを言っていないかと・・・。

無神経に発した一言が患者さんを傷つけ、そして来院を遠ざけることになっていないか?と深く考えさせられたのです。

言葉の選び方と配慮の重要性

患者さんを傷つける無神経な声かけは論外ですが、では患者さんを大切にするための言葉遣いのポイントはどのようなところが大切なのでしょうか。それは患者さんの心に寄り添うことではないかと思います。患者さんの心に寄り添うためにはいくつかのポイントを意識した言葉遣いが重要だと考えます。

具体的な患者さんの例をあげて診ましょう。

「腰が痛くて診てもらいたくて来ました」という70歳の女性患者さんが来られました。

このようなな訴えがあった場合はどうすればいいでしょう。

やはり

「お辛いですね。その痛みはどのような感じですか?」のような表現で聞いてあげるといいと思います。

このような表現では、患者さんの辛さに共感し、具体的な症状や感覚について尋ねることで、患者さんの状態にフォーカスしていると思います。

その結果、

「車から降りるときに腰が突っ張って痛くて伸びない感じがして焦りました。一歩目が出にくくて足がスッと動かなかったのですが、初めてで怖くなりました」

とより具体的な状態を患者さん自身が考えて表現して説明してくれましたので、単に腰が痛いというよりもより辛い場面や動きが把握できました。

感情や苦悩に寄り添い、理解を示すことで信頼関係を築く

今度はなぜ腰が痛くて突っ張った状態だと困るのかを聞いてみます。もちろんそんな状態がない方が生活しやすいのは間違いありませんが、辛い状態がなぜ困るのかにフォーカスしました。

「車から降りる時に腰が痛くて突っ張った感じがあったり、足がスッと出にくいと、お仕事や日常生活にどんな困りごとがありますか?」

「ちいさなお店を1人で切り盛りしているので、配達や店番の時に困るんです。1人しかいないから休めないし・・・。」

とお答えいただきました。

困りごとにフォーカスすることで、患者さんが自分の状態を思い返して話しやすくなり、何を解決すればいいかこちらも分かりやすくなりますし、何より患者さんご自身も自分の体や状況を改めて考える機会となると考えています。

患者さんのご経験を引き出す

「車から降りるときに腰が突っ張って痛くて伸びない感じがや、一歩目が出にくくて足がスッと動かない状態になったのは何かきっかけがあったのですが?思い当たることがありますか?」

とお聞きすると、

「関係あるかどうかがわかりませんが3ヶ月くらい前に尻餅をついて転んだんです。その1ヶ月後くらいに同じような軽い症状が出たんです。1日も経たずに治ったので気にしていなかったんですが、関係ありますか?」

「あと、20年以上前に交通事故で車が廃車になるくらいの自損事故を経験したのを思い出しました。怪我はした記憶がないのですが、これも関係ありますか?」

と色々と患者さん自身が考えてくださいました。

治療への参加意欲を高める前向きな言葉

「〇〇さんの症状の改善のヒントになります。色々と教えていただきありがとうございました」とお答えしてから検査後に原因が分かりましたので、

「ここを治療して、このような形になれば、配達や店番の時に腰の痛みや突っ張り感が出なくなり、足もスッと出るようになることが期待できます。一度で全て治るものではありませんが、一緒に取り組んでいきましょう。」

とお伝えしました。

すると、

「常連さんもご高齢の方が多く、1キロも離れていないところにあるスーパーに行けない人がたくさんおられるんです。自分の体が悪くなってしまっては、あと何年かお店を続けたいし、常連さんたちも困るので、なんとかしたいです。」

とおっしゃっていました。

その後、治療計画をお話しして、

「このようなペースで治療すれば大丈夫です。あと何年かと言わず10年でも20年でもお店を続けられるようにしましょう。」

「20年経ったら90歳近くなるから無理やわ」と笑っておられました。

まとめ

今回、ある患者さんが医師から告げられた無神経な一言で悲しんでおられた状況を目の前にして、今後の患者さんの対応の仕方について考えさられましたのでシェアさせていただきました。

患者さんの心を傷つけず、うまくコミュニケーションをとるためには、言葉遣いやお気持ちに寄り添い、患者さん自身の治療への参加意欲を高めるような配慮が必要だと感じました。

心を傷つけるようなたった一言で患者さんの心が離れていきます。私たち治療者として、患者さんの心に寄り添う言葉遣いを常に心がけ、信頼関係を築く努力を惜しまないことを私自身も改めて考えさせられました。

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(監修 柔道整復師 田口誠二)

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