第5回 数十円でもダメなものはダメ。10年以下の懲役刑も。

さて、前回から柔道整復師と業界の現状をお伝えしております。

今日の内容も、実際にあった事例ばかりです。

保険請求をやめれば見えてくる明るい未来の前に、まずは厳しい現実をみてみましょう。

第4回 追い詰められた柔道整復師。業務停止は10年間で171人に。」でも述べました通り、不正請求の金額の大小に関わらず摘発される柔道整復師が後を絶ちません。

各厚生局から発表されている「受領委任の取扱いの中止に至った主な事由」の代表的な例は下記の通りです。

① 施術を行っていないにもかかわらず、施術を行ったものとして療養費を不正に請求していた。 

これは代表的な不正事例です。

施術を行なっていないのに整骨院に来たことにして施術をしたことにした、という一番安易な方法です。

何にも考えずにできる方法なので、安易にレセコンをポチッとしてしまうという代表的な不正事例です。

他の業界、業種で考えてみたら本当にあり得ない話です。

あり得ない話すぎて他の業種の方はピンと来ませんよね、きっと。

「患者さん、柔道整復師、保険者」という構図は正当な保険請求と同じでも、本来の保険制度のあり方や目的を無視したことが行われているのです。

 

②実際の施術日以外に施術を行ったものとして、施術日数を付け増して療養費を不正に請求していた。 

これも安易な方法の代表格です。

1-2  レセコンを「ポチっ」と押すたび水増しに。置き換え請求もやってしまっていませんか?」でも述べましたが、当該月に3日しか来ていない患者さんを10日来たことにするなど、患者さんの個人情報を悪用した方法で、いわゆる「水増し請求」と呼ばれるものです。

居酒屋でビールを3杯しか飲んでいないのに、会計時に伝票には10杯付けられていたという感じでしょうか。

居酒屋のボッタクリの場合の直接の被害者はビールを飲んだ消費者ですが、水増し請求では被害者は保険者ということになります。

もちろん患者さん自身も知らない間に被害に巻き込まれるということになります。

 

③冷罨法を行っていないにもかかわらず、冷罨法を行ったものとして冷罨法料を付け増して、療養費を不正に請求していた。 

これは意図して不正をしたというよりもレセコンを使うことの弊害といいますか、保険請求の仕組みやルールが分かっていない柔道整復師が行なってしまったことだと思います。

実際に行なった治療とレセコン上の記録が異なっていても、知識不足のために請求作業をした柔道整復師が気がつかなかったということがあるかもしれません。

「レセコンに入力したから大丈夫」と安易に考えていると、結果的にこういう不正が起こってしまうという代表的な事例です。

 

④往療を必要とするやむを得ない理由がないにもかかわらず、患家で行った施術について、療養費を不正に請求していた。 

この事例もよくあるのではないでしょうか。

往療を必要とするやむを得ない理由とは単に「足が悪い」「歩くのが困難」という程度のものではなく、

・変形性膝関節症により両膝に関節拘縮があり、起立位を維持するのも困難。 

・脳梗塞の後遺症により身体に麻痺があり、介助なしでは独歩が困難。

このような絶対的な理由が必要です。

患者さんはルールや仕組みを知りませんから「親切な先生がわざわざ治療に来てくれた。」と喜んで崇めてくれるでしょうが、絶対的理由がなく往療料を請求するのはいけませんよね。

 

⑤無資格者が施術を行ったにもかかわらず、柔道整復師が施術を行ったものとして、療養費を不正に請求していた。 

柔道整復師が行う医療行為の一端である柔道整復術は、もしその施術中に事故があれば医療上での過誤に該当しますので医療上での責任を負わなければならない義務があります。

しかし無資格者が行う施術行為は医療行為ではありませんので、事故が起きた場合は「傷害」にあたるおそれがあります。

それほど法的な資格の有無は重要であるのですが、無資格者が施術をした上に療養費を請求するというモラルのない柔道整復師が存在するということ自体が非常に大きな問題だと思います。

 

⑥実際には療養費の支給対象となる負傷ではないにもかかわらず、療養費の支給対象となるよう偽った負傷名や負傷原因を付して施術録に記載(入力を含む)し、 当該負傷に関し施術を行ったとして療養費を不正に請求していた。 

これはおそらく「1-2  レセコンを「ポチっ」と押すたび水増しに。置き換え請求もやってしまっていませんか?」でも述べたように、部位転がしも含まれると思います。

または肩こりや慢性腰痛を急性のケガと偽って療養費を請求した事例ですね。

肩こりの患者さんを肩の捻挫に置き換えてみたり、

慢性腰痛の患者さんを急性の腰部捻挫に置き換えてみたり、

負傷した状況や原因を作り上げたり、

あるいは患者さんの訴えを誘導したりして勝手に創作した物語の中で請求をしたという、

冷静に考えると恥ずかしい内容の不正です。

 

⑦初検時相談支援料について、患者に対して説明した施術に伴う日常生活等で留意すべき事項等を施術録に記載していないにもかかわらず不当に請求していた。 

これも③の内容と同じで、レセコンを使う弊害ですね。自動で入力はされるが内容を理解していないから記入すべきことを記入できていないという初歩的な間違いです。

明らかになっている不当請求の中には「 8名分 支給申請書 9件 315円 」というものもあります。

金額の大小でないということは前述いたしましたが、昔は大丈夫だったからというのは通用しません。

数十円でもダメなものはダメです。

不正に手を染めてしまったことで10年以下の懲役刑を科された柔道整復師もいます。

ある日突然摘発され、療養費の取り扱いを取り消され、家族ともども今の生活が一変することだってあり得ますので、現在行なっている請求を今すぐにチェックして、「不正請求なんだ、法を犯しているんだ」ということを認識し直す必要があるのではないでしょうか。

 

次回は「保険を扱う柔道整復師の未来」についてです。

 

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